尾道

 久し振りに「目的地や予定の無い旅」に妻と2匹の犬とで出かけました。これは私がサラリーマンの時に良くやっていた旅なのですが、「大体何日ぐらいの日程で、どっち方面に出かける」と大雑把に決めるだけで後は、車で走りながら決めるという何の計画性も無い旅です。 
 なぜそんなことをしていたかと言いますと、2匹の犬を旅行する際も必ず連れて行くものですから、今でこそかなり増えてきましたが、当時はペットと泊まれる宿なんてものはほとんど無く、仕方なしにそうせざるを得なかった、というのが実情でした。そして今回は何気なしに「西の方へ行こう」と走り出し、最初に着いたのが淡路島の洲本でした。そこではすでに夕刻になっていたものですから、地元の活きのいい魚などを楽しもうと美味しそうな居酒屋を探しましたが、いつに無く入る店がなかなか決まらないので、仕方なく目に入った派出所に入ってお店を何件か紹介してもらいました。次の日は徳島に行き、行列していたセルフのうどん屋さんでうどんを頂き、その後道後温泉につかってその日の最終は尾道に行きました。そこでまた、美味しそうな居酒屋を探し入店したのですが、これが私達にとっては大変的外れなお店で、すぐに出て違うお店を探しました。そして商店街に行き着き、そこしか開いていなかったカウンターだけのお店に入りました。そのお店に入ってすぐに目に飛び込んできたのが、鮮明には覚えていませんが、お世辞にも達筆と言えない多くの手書きのメニューの中に、「おでん コンブ 20円、こんにゃく 40円・・・」などというおよそ居酒屋らしからぬ価格でした。その他のメニューも安いのに、お客さんが一杯どころか私達だけで、他人事ながら同じ商売をしているものとして、この店が良く成り立っているのが不思議でした。それに加え、お話を聞いて分かった事が、店主は神奈川出身で、この地に何の地縁性も無かったのですが、郵便局に勤めている時に旅行で何度か訪れた尾道に住み着くようになって、たまたま店を出した事や、店の名前が居酒屋なのに「うどん奥山」等と驚きとおもしろさの連続でした。そして次の日は、その店主に親切にも尾道を案内して頂き、楽しい観光をすることができました。
 そんな彼曰く「この商売で今ではもう、食べて行けますし、たぶん赤字も出てません。サラリーマンの頃のように休み明けの仕事を考えて憂鬱にもならないし、ほんとに気楽にやってます。」とのこと。これを聞いて私は、会社を大きくしようとか、今月の収入はどうだこうだ、社員がああだこうだ、取引先がどうだ、などとは考えずにやっていく商売の仕方も、選択肢として存在するんだということを再認識致しました・・・。