夜のピクニック

 「昔はよかった」「昔はいい時代だったのに」年齢を重ねるほどに口にされる割合が上がっていくのではないでしょうか?一方こういう格言もあります。
 「古きよき時代―――すべての時代は古くなると良くなる。―――英国の詩人 ジョージ・ゴードン・バイロン(黄金時代)より」
 これらの言葉を信じるとすれば我々は最悪の時代を常に更新しながら生きている訳になります。これらの言葉は時代が悪くなっていっているのではなく、「昔は輝いていた自分」と「今は輝きを失ってしまった自分」との落差に内心気づきながらも、時代のせいにしているのかもしれません。だとしたらこの上なくネガティブな言葉です。
 私も年々こういった言葉を口にすることが増えてきました。と言いますのも、小説「夜のピクニック/恩田睦」を読んだからです。「夜を徹して八十キロを歩き通すという、高校生活最後の一大イベント「歩行祭」。生徒たちは、親しい友人とよもやま話をしたり、想い人への気持ちを打ち明け合ったりして一夜を過ごす。そんななか、貴子は一つの賭けを胸に秘めていた。」このあらすじにワクワクしながら2晩で読破しました。帯に「この本を読んでいる間はみんな18歳に戻れる」と書いてありましたが、見事に高校時代にタイムスリップして、感傷に浸ってる自分がいました。やはり私も高校時代は勉強は大変で、さらに将来何をしたいのか自分でも分からず進路にも頭を悩ませていましたが純粋に楽しい日々でした。また、未だ見ぬ未来に希望を持っていました。
 「古きよき時代」といった類の言葉はこういった見方もできると思います。もがき苦しんだり、苦労したりしながら、それを乗り越え、自分の血となり肉となった体験を自分のプラスになった「良かったもの」と過去を肯定する視点で認識できている証拠なのかもしれません。それはいい意味で「大人」の視点で物事を見ることができるようになった証(あかし)なのだと思います。
 現在色々大変であり、苦労も耐えない「最悪な」この時代でも将来、それを乗り越え、自分が少しでも成長できたとき、また「大人」になることができたとき、あの頃は良かったと言える時が来るのではないでしょうか。
 過去を懐かしむ時、未来においても懐かしむことができるような過去にするような生き方を今現在しなければいけないと思わせてくれた1冊でした。
 (筆)株式会社 近畿不動産販売  流通営業1課課長 平居 慎也